クールな副社長はウブな彼女を独占欲全開で奪いたい
 決心して顔を上げる。見上げた遥人さんの瞳は困惑気味に揺れていた。胸を握り潰されたかのような痛みが走る。

 私だって好きと言いたい。でもそれは許されない。

「奥さんがいるのにダメですよ。これは裏切り行為です」

 しっかりと喋ったつもりだったのに、耳に届く私の声は震えて悲痛に満ちていた。

 時間が止まったかのように私たちの間に沈黙が走る。夏の夜の闇が、湿度をまとって重く垂れ込めている。

 遥人さんの顔は、ひどく疲れているように見えた。

「いや、おかしいだろう。どうしてそうなった」

「え?」

 盛大な溜め息を吐き出した端正な顔は、涙でぼやけた私の瞳にはよく映らなかった。

 どうして、そうなった……?

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