クールな副社長はウブな彼女を独占欲全開で奪いたい
「白峰さんのおかげよ。ありがとう」

「いえ、そんな」

「いつなにがあるか分からないし、一日でも多く、大切な人に会える大切さを最近実感しているの。これからも遥人と仲良くしてあげてね」

 返事をしづらい言葉をもらって私は曖昧に微笑んだ。

 遥人さんも、宝生さんも、よく分からないことを言う。

 仲よくってどういうふうに? 彼らは男女の友情は成立すると考えているのだろうか。

 遥人さんに会ったらどうやって挨拶を交わそう。

 対応策が見つからないまま部屋までやって来る。遥人さんは部屋の中ではなく、廊下に出て扉に背を預けて立っていた。

 私たちに目を留めた遥人さんが表情を柔らかくする。やっぱり素敵な笑顔で、胸が自分の意思とは関係なしに、勝手にキュッと鳴る。

「ばあさんの好きな、朝霧菓匠(あさぎりかしょう)の和菓子を持ってきたよ」

 右手に持っている紙袋を持ち上げた遥人さんに、宝生さんは「あっ」と嬉しそうな声を上げる。
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