褒め上手な先輩の「可愛い」が止まりません
兄の顔を見た途端、数分前の出来事が走馬灯のように脳裏に浮かんだ。


夜中に一緒にお茶を飲んだ時に漂ってきた香りと、広い肩幅。

腕もだけど、細すぎず、程良く筋肉がついていて。


数センチしか身長変わらないのに、やっぱり体格は男の人なんだなぁ……。


って、何考えてるんだ私は……!

ごめんなさい! 引っ込み思案のくせに、また勝手に妄想して本当にごめんなさい!



「楽しかったけど、色々迷惑かけちゃったのが申し訳なくて……」



暴走する脳内を鎮めながらゆっくり答えた。



「迷惑? フラついて足踏んだとか? それとも寄りかかっちゃったとか?」

「うっ……」



後者の言葉に胸がドキッとして、のどから変な声が出た。


隠すのが下手な自分に嫌気が差す。

最悪……今ので絶対図星だって思われた。



「まぁ……そんなとこ」

「あっ、おいっ」



ボソッと答えて急いで上履きに履き替え、逃げるように準備室に入った。


先輩のことは人として好き。

だけど……。


──本当は、恋愛に臆病になった自分を守るように、無意識にそう自分に言い聞かせていたのかもしれない。
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