褒め上手な先輩の「可愛い」が止まりません
「あ、言いづらいなら、目瞑るから!」



頭の中を読み取ったのか、返答する間もなく先輩は目を閉じてしまった。


どうしようかと迷いながら、目の前の綺麗な顔をじっと見つめる。

これは言わないと帰れないなぁ……。



「……東馬先輩の意地悪。先に帰りますね!」



「今日はありがとうございました!」と早口でお礼を言い、急いでバッグを肩にかけて階段を駆け下りた。


このままだと体温上がりすぎて頭おかしくなっちゃう。

明日も学校あるし、熱出しちゃったら大変だ。



「ちょっと待って!」



下りきったところで呼び止められ、反射的に立ち止まる。



「途中まで一緒に帰ろう」



階段を下りた先輩が、隣に立って手を差し出してきた。


噂を気にして、人を気にして、繋ぎたくても繋げず。

苦しくもスルーしてしまった手。


でも、今なら──。



「……はい」



大きな手のひらに、自分の手をそっと重ねる。

静寂に包まれた階段の踊り場で、私達はお互いに指を絡めながら頬を赤くして笑い合ったのだった。



END
< 258 / 264 >

この作品をシェア

pagetop