褒め上手な先輩の「可愛い」が止まりません
「どうだろう。直接聞いたことないんだよね。雪塚さんの接し方を見る限り、景斗の片想いだと思う」
最後に返し縫いをし、エプロンをミシンから外した。
よし、だいぶできてきた。あとはもう片方のポケットをつけたら完成だ。
「そういえば西尾くん、今朝須川くんと登校してたよね」
「えっ、須川くんのこと知ってるの?」
「知ってるも何も、同じ中学の子でしょ? あの子も頭良くてかっこいいって有名だったから。仲良かったんだね」
「あー……いや、実は知り合ったの数日前なんだ。彼、実玖ちゃんのクラスメイトで……」
説明し始めた瞬間、作業していた草山さんの手がピタリと止まった。
「実玖ちゃん……?」
「あっ、実玖ちゃんっていうのは景斗の妹さん! 追試で休みの日に景斗んちに遊びに行って、その時に知り合ったんだ。雪塚さんと同じ美術部に入ってて、すごく礼儀正しい子なんだよ!」
「へぇ……」
エプロンを片づけていると、午後5時半を指した時計が目に入った。
「あ、俺そろそろ帰るね」
「え、もう? まだあと30分あるよ?」
「勉強の計画立てるから! また明日ね!」
作業中の草山さんに手を振り、急ぎ足で部室を後にした。