王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
ここ1週間ほど気になることがあった。
本の知識はあったけど……何分実際の経験や知識はゼロだから、どう対応すれば良いのかわからずに悩んでいて。
マルラに相談しようかと思ったけど、彼女も経験はないだろうし。ことがことだけに慎重にならなきゃいけない気がした。
『お初にお目にかかります。レッドラン公爵夫人、アリッサと申します。どうぞごゆっくりお寛ぎくださいね』
別館の公爵夫人に挨拶に伺った時、彼女はサロンでゲームに興じていた。おそらくお気に入りの貴族の夫人を集めていて、色とりどりのドレスは贅沢の極みを尽くしたもの。
栗色の髪をゆったり結い上げ、編み込みには真珠を散らしていて、髪飾りはティアラと見間違えるほど贅沢にダイヤモンドを使用している。繊細な織りの総レースのロングドレスは白に金銀の糸で縁取られ、そのドレスにも宝石が散りばめられていた。
大ぶりのイヤリングに重そうなネックレスとブレスレットは、おそらく城一つが買えそうな価値があるものだろう。
頭のてっぺんから足のつま先まで手入れが完璧なお手入れをされているから、ため息が出るくらい美しい。
『こちらこそ、突然お伺いいたしまして申し訳ございません。リリィ・ファールと申します』
『まぁ、フィアーナ語もお出来になるのね。懐かしいお話ができるお仲間が増えて嬉しく思いますわ』
噂で聞いた通りに、レッドラン公爵夫人は決してフィアーナ語以外で話そうとしなかった。身につけるものも食べる物も、フィアーナから輸入したものだけという。
(なんだろう?すごく違和感がある……)
公爵夫人のなかに何か燻っているような……。鬱屈したものを感じた時、ゾクッと背中に冷たいものを感じた。
(……これは…宿舎のお風呂で感じたのと同じ視線!?)
あの後、わたしは図書室で初めて襲われた。サラさんが助けてくれなかったら、どうなっていたか…。
(……どこから?誰かわたしに)
慎重に慎重を重ねて視線を動かすと、薔薇園にアリス様の姿が見えた。彼女は相変わらずぼんやりしていて、侍女がなんやかんや世話をしていたけど。
その中に、シルバーブロンドの美しい女性を見かけた。ずいぶん背が高くて、エメラルドグリーンの瞳は宝石のようだ。
(あれ…?あの人…どこかで見たことがある…?)
なんだか、とても気になった。