王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
レッドラン公爵夫人から今晩は歓迎パーティだ…と聴いて、更に違和感を覚える。
そもそも王太子殿下がこの地に来たのは、国境付近で起きた問題に対処するためのはず。
道中殿下の都合で数日の遅れが出た以上、そんなにのんびりしてる場合じゃないはずだ。
「パーティは当然断っておいたが、気になる点があるな」
王太子殿下は早速わたしの充てがわれた部屋に、腹心の部下とともにいらした。
「パーティは表向きレッドラン公爵の主催になっていたが、発案も指揮も全て公爵夫人が仕切っているらしい」
「そうでしょうね…実はわたし、公爵夫人のサロンでご挨拶をしたのですが…公爵の収入以上に派手に浪費していることが気になりました」
わたしがサロンで見聞きしたことを伝えると、なるほどと殿下は腕を組んだ。
「……色々と怪しいな。だが、今はまだ動ける段階ではないな」
そして、殿下はもう一つの疑惑を小さな声で話される。
「……ここだけの話だが、リリィ。おまえの暗殺を企んだ犯人として一番疑わしいのは、このレッドラン公爵家だ」
「え…!?」
「今はまだ尻尾を出さないだろう。だが……」
王太子殿下はソファから立ち上がると、お茶を淹れているわたしをギュッと抱きしめた。
「リリィ、オレが必ず護ってやる。だが、四六時中ともにはいられない。くれぐれも気をつけるんだ」
「……ありがとうございます。大丈夫です。カインさんもいますし、サラさんに魔術を学んでますから」
顔を上げて安心させようとにっこり笑えば、いきなり殿下にキスをされた。
「……他の男の名前を呼ぶな。ずっとキスで口を塞ぐぞ?」
「……そ、そんなの無理です……ッ」
急にクラリと目眩がして目をギュッと閉じると、王太子殿下が心配そうな声を出された。
「リリィ、大丈夫か…?顔色が悪い。気分が悪いのか?」
「はい…大丈夫です…きゃっ!?」
突然王太子殿下はわたしを抱き上げ、ベッドまで運ぶとそっとおろしてくださった。
「医者を呼ぼう」
「だ、大丈夫です!ここ何日かこうで……原因はわかってますから。呼ばなくていいです!」