王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
一旦休憩も兼ねて、からす亭に寄った。
「クレア姉さん…!無事でよかった」
姿を見た瞬間に感極まって思わず抱きつき涙を流したけど、普通通りに働いていたクレア姉さんは、何事かと目を白黒させてた。
「リリィ…一体全体どうしたの?王宮は?」
「大丈夫、許可をいただいてるから。それより、村で小競り合いがあったって聴いて…心配で心配で。みんなは無事だったの?」
「あ、そのせいか。大丈夫、こっちはなんともないよ。心配してわざわざ来てくれたんだ。ありがとうね」
クレア姉さんは笑ってわたしの背中を優しく叩いてくれた。やっぱり……わたしの姉さんだ。孤児のわたしにとって、大切な大切な人。
故郷の人たちが無事でよかったけど、まさか想定外のことが起こるなんて夢にも思わなかった。
(クレア姉さんに王太子殿下を紹介したら、きっと驚くよね)
まさか、わたしが王太子殿下に同行させて頂いてるなんて。どんな反応するか楽しみ!なんて、イタズラっ子みたいなワクワクする気持ちでいた。
「あ、あの……クレア姉さん、紹介するね。こちらは……あれ?」
わたしが紹介しようとしていた王太子殿下は、さっきまでの場所にいない。どころか、わたしの予想外のことが目の前で起きた。
「……久しぶりだな」
「はい……ご無沙汰しております」
まさか、クレア姉さんと王太子殿下がすでに顔見知りだった……しかも、結構親しげなんて思いもよらなくて。
「元気そうだな、よかった」
「はい……すべて殿下のお陰です」
「何か困ったことがあれば言うといい」
「ありがとうございます…でも、大丈夫ですわ」
にっこり笑うクレア姉さんと王太子殿下お2人の会話を、わたしは呆然と見守るしかなかった。