王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情


「ね、リリィ。なんかあたしたちお姫様になったみたいね。カインさんも黙っていれば王子様のみたいにカッコいいもの」

マルラが小声で耳打ちをしてきたけど、それについては同意するしかない。
まぁ、カインさんが黙っていればというのは確かにそうだ。

「はっくしゅい!いやぁ、誰かがボクの名前を呟いてくれてる…ボクに恋い焦がれてるんだなあ…モテるのも罪だね」

外からカインさんの寝言が聞こえたけど。

2頭立ての馬車に乗るのも初めてだけど、予想以上の仰々しいお迎えに驚いた。
使者のカインさんは馬に乗ってすぐ前を先導しているし、周囲には馬に乗る10人以上の近衛兵が護衛をしてくれてる。全員カインさんの直属の部下らしい。

(確か、近衛って…王族とか王様を護衛する兵だよね?なんで、民間人のわたし達にこんなに使われるの?)

しかも王太子殿下付の護衛責任者であるカインさんが、殿下のもとを離れてわざわざわたし達を迎えに来る必要は?
平民からの任官とは言ってもわたし達はただの女官のはず。官位はいただけるけど、低い序列らしいし…そんな御大層な身分とは思えないけど。

わたしがその疑問を口にしようとした時、急に胸に重苦しさと焼けるような痛みが走った。

「…っ」

また、だ…。

「リリィ!」

マルラの悲鳴のような声を聞いたのか、ゆっくりと馬車が停まった。

「リリィ様!大丈夫でございますか!?」

護衛の女性近衛兵であるサラさんが素早く近づいてわたしに問いかけてくる。心配いらないと言いたいけど、息苦しくてろくに喋れない。

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