王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
“風の拘束”
基本的には手足の自由を奪うんだけど、人を風の檻に閉じ込めることもできる。
風の動きを立体的に捉え、対象の周囲の空気を利用し空間に干渉することで動きを制限したり、閉じ込めたりできる…と、サラさんのノートには書いてあった。
もちろん、逆のこともできる。
風圧を利用してものを動かしたり、動きの補助をしたり。火や水とも親和性が高くて風は応用が効きやすい。
「…へえ、ほんッとに動かないんだ。すごいねえ」
大の字で拘束状態にされたカインさんの腕を、マルラはちょんちょんと指先で突く。
「マルラちゃわ〜ん、触るならもっと下を…ボクのドリーミー…べご」
まったく懲りないカインさんは、マルラから二人がけのソファをお見舞いされ、再び沈黙。
……何しに来たんだろ、この人。
「……ほんッ…………と、キモい!!!同じ部屋の空気を吸いたくないわ。リリィも近づいたら駄目だからね!行きましょ」
「あ、うん……」
怒り心頭のマルラはわたしの腕を取り、ずんずんと大股で部屋を出ていく。わたしにすれば外に出て願ったり叶ったりだけど…
「マルラ、せめて隣の王太子殿下のお部屋にいかない?」
「そうね…安全を考えたらそうね。まだ壁をへだてりゃマシでしょ」
頭に血が上っていても、流石に危険性を考慮してわたしの提案を素直に受け入れてくれた。マルラを伴って王太子殿下の部屋を訪ねると、部屋の前にいた警備兵は気まずそうな顔をした。
「リリィ様でいらっしゃいますね。王太子殿下より、いつでも自由に出入りを許可するようたまわっております…ですが、今はレッドラン公爵令嬢のアリス様がいらっしゃいまして…」
「え?殿下がいらっしゃらないのに…」
マルラが当然の疑問を口にすると、警備兵も心底困ってるのかつい本音が漏れてた。
「私どももそう申し上げたのですが……“殿下がいらっしゃるまでお待ちします”……とおっしゃっい動こうとなさらないので……困っております」