王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
『……そう』
初めてアリス様が話されたのは、フィアーナ語だったけれども。心底関心が無さそうな、どうでも良さそうな態度で。
『どうでもいいわ…どうせ、わたくしが王太子妃になるのは決まっているんだもの…』
やっぱり、ニコリともせずに……まるで紙に書いた言葉を読み上げたような、無感動な言い方をされた。
『……そんな事はありません』
シルバーブロンドの侍女さんは、アリス様に辛抱強く語りかけた。
『必ず、そうなるとは限らないものです。大切なのはご自身のお気持ち……ではないでしょうか』
なぜだろう?
その侍女さんからは、サラさんに近い優しさを感じた。心底相手を思い遣る真心の籠もった温かい言葉…だからか、アリス様もほんの少し関心を抱いてた。
『……わたくしが、王太子妃以外の何を目指せ、と?』
『それは、ご自身でお決めになること。ご自身のお心によく問いかけるのです。きっと、おわかりになりますよ』
にっこり笑った彼女の笑顔は、とてもあたたかなもので。
周りの侍女がハッとしたように、ぎゃんぎゃん喚き始めた。
「無礼者!新参の立場で、アリス様に直接意見など…十年早いわ!!」
「アリス様が王太子妃になるは決まっておるのです!」
すると、あまりのうるささに辟易したのか、マルラがボソッと独り言を呟いた。
「あ〜あ…年を重ねたら静かで素敵なおばあちゃんになりたいわ。あんなふうにヒステリーは起こしたくないわあ」
「なっ…なんですか!無礼な!!」
そりゃ、あちらに聞こえるくらい大声で言ってたからね。マルラが言いたくなる気持ちはわかる…とは言っても、さすがに失礼と思い注意をした。
「マルラ、やめなさいよ」
「いいのよ!あのお姫様に同情するわ。あんなヒステリーおばあちゃん達が周りにいたら、そりゃうんざりするでしょう」
「ひ、ヒステリーおばあちゃんですと!?」
「だれが…!この伯爵夫人のわたくしを捕まえて!無礼にも程がありましょう!」
ぎゃんぎゃん喚く侍女たちに、アリス様から強烈な一言がお見舞いされた。
「……うるさい。静かにできないなら即解雇するから出ていって。あと、侍女もお客様よ。お客様に失礼した者は即出ていきなさい」
アリス様は思ったよりも自分の考えを持った、しっかりしたお方だった。