王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

(こんな雰囲気じゃ術の練習しづらいなあ…)

王太子殿下の客間は何部屋もあるから移動しようと思ったけど、アリス様の侍女が睨んでくるから動きづらい……。マルラと一触即発の空気が漂ってるし。

(仕方ない…ちょっと遠くに風を起こす練習でもするかな)

アリス様の侍女は10人ほどいて、数人後ろに控えて数人周りにいる。
基本的に1箇所から動かないから、風を動かす練習に丁度いい。人間とかの障害物がある時の訓練になる。

(よし…!)

瞼を閉じて、ゆっくりと深呼吸。精神を集中させながら、イメージを……。

闇の中に、ぼんやりと光を感じる。見慣れたマルラの持つ光…ちょっと淀んだ鈍い光……

(あ、これはアリス様かな?まるでガラス玉みたいな綺麗な光…)

アリス様はうっすらと透明な輝きをしてらして…そして、驚いた。

おそらくあのシルバーブロンドの侍女さんの持つ輝きは、メイフュ王太子殿下と変わらない…いえ、むしろわずかだけど強く大きな光。銀色の炎のような激しさと、確かなぬくもりを感じた。

そして……

ぞわっ、と全身が粟立つ。
暗く、澱んだ闇のようなどす黒い光…?
何度も感じた、鋭利な刃物の如き視線。
紅く、赤く。血に染まった両眼がわたしを睨みつけてきたーー


「!?」

バッ、と目を開いてすぐさま疑わしい方を見てみた。
けれども、こちらを気にしている人さえ見ない。どの侍女も、何度も見たことがある顔馴染みのみ。

(一体だれだろう?すごく気になる…)

ひとまず簡単な練習をしたけれども、何だかいたたまれなくなってきた。

マルラに退出を伝えようか考えた時、意外なことにアリス様の侍女から声をかけられた。

「あの…もしかして魔術の練習をされてますか?」

訊ねてきたのは艷やかな緑色の髪を後ろで束ねた清楚そうな美人さん。女性にしてはちょっとゴツい気もするし、ハスキーな声だけど。見た目ではわからない方法で練習していたのに、見破られて驚いた。

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