王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

「よければ、コツをお教えしましょうか?」

にっこり笑って親切に言う侍女さん……信じて良いのか?と疑う気持ちもあるけれど。わたしの直感ではこの方は信じていい、と感じたから頷いた。

「はい、よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げたわたしに、侍女さんは「こちらこそ」と微笑んでくれた。
「あら、ロゼ。またなの…本当に教えるのが好きね」
「ローズさん、別にいいじゃありませんの」

シルバーブロンドの侍女さんが緑髪の侍女さんと会話すると、なぜか肩を揺らし必死に笑いを堪えてる…ずいぶん親しげだなあ。

ほんの少し頬を赤らめた緑髪の侍女…ロゼさんは、わたしに術の指南をしてくれた。

「術はイメージも大切ですけど、もっと大事なことは自然に対する畏怖の念…感謝の気持ちです。わたくしたちが生かされているのも、術を使うのも大元は同じ。大自然の恵み…自分以外の存在があってこそです。利用する、思い通りにする、という傲慢な気持ちでは、力を貸してくれません。利用させていただく、とい心持ちで。そして、感謝の気持ちを必ず持ってください」
「はい」
「そして、風を使う時は空をイメージしてください。嵐や心地よいそよ風…ご自身が空になったつもりで…自分を解放するのです」

(空をイメージする…自分を解放……)

ロゼさんの指導どおりに、意識を広げ空になるつもりでイメージする。

するとサラッと心地よい風に触れたから、それを恐る恐る触れてみる。

(飛んでいって…メイフュ王太子殿下のもとへ!)

そんな思いで飛ばす……と。

放り投げた風が渦をまいて上昇気流を生み出し、たちまち竜巻となって荒れ狂った。

「きゃあああ!」

悲鳴が聞こえたから慌てて目を開けると、リアルに室内で風が渦を巻いてる。

「はっ!」

ロゼさんが手を翳して一振りするとあっという間に収まったけど……

「もう少しコントロールを覚えた方がいいみたいですね…」
「はい…」

王太子殿下にも怒られたばかりなのに、またやらかしてしまって…
しゅんと項垂れるしかなかった。


< 118 / 158 >

この作品をシェア

pagetop