王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「どうした?」
「あ、隊長。リリィ様がご不調に…」
他人の会話が、籠もって聞こえる。まるで水の中にいるように…。
「リリィ!これ、飲んで!!」
マルラの声が聞こえて、口の中に苦みのある液体が広がる。それがまるで氷を溶かすように、じんわりと体をあたたかくしてくれた。
「はぁ…はあ、ゴホッ」
「リリィ、大丈夫?水も飲んで」
マルラは甲斐甲斐しく世話をしてくれて、背中をさすりながら水も飲ませてくれた。
「あり…がとう、マルラ」
「ううん、いいよ!発作についてはクレアさんに聞いてたし、渡されてた薬が効いてよかった」
マルラはほんといい子だ。会ったばかりというのに、他人にはなかなかここまでできる人は少ない。わたしだってそうだ。
「マルラって、ほんと優しいね…」
「ううん、そんなこと…ないよ。あたしだって、友達じゃなきゃね」
友達、と聞いてドキン、と鼓動が速くなった。微かな期待を抱いて、恐る恐る訊いてみる。
「友達…マルラ、わたしでいいの?」
「え?リリィは嫌なの?」
逆に彼女にきょとんと問い返されて、慌てて首を横に振った。
「ち、違うの…あの、わたし…同性の同世代友達は初めてだから。嬉しいのだけど…もし、マルラが良ければ友達になってください」
思い切って、マルラに望みを告げてみた。
わがままかと思われないか、迷惑と思われないか…とドキドキしながら。
「うん、あたしだって同じ気持ち。リリィが良ければ友達になろうよ!」
マルラは手を差し出してきたから、わたしも彼女へ手を伸ばし重ねあう。
「これで、あたしたちは友達ね!リリィももう、遠慮なんてなしだよ」
「マルラもだよ。つらいこととか…なんでも言ってね」
ゆっくりゆっくり、じわじわと嬉しさが胸いっぱいに広がる。
こうして、マルラはわたしの初めての友達になってくれた。