王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
どれだけ待っただろう。
ようやく動いた王太子殿下は愛馬に跨り、大森林地帯の手前に駐留させていた部隊へ向かって檄を飛ばした。
「フィアーナ王国正規軍に偽装した不届き者が国境を侵害している。だが、安々と破られるわけにもいかない。国ではなく君たちの大切な物と者を護るために、戦うんだ。だが、決して犬死にはするな!我が先遣隊を始めとする数多の部隊が道しるべを作った。恐れず仲間を信じて進め!!」
「おおおっ!!」
数千人の兵の士気は一気に高揚し、鬨の声をあげて…隊列を組みながら進軍していく。
国境防衛戦は王太子殿下が先回りして打った手で、次々と偽フィアーナ軍を撃破していった。
元々傭兵やならず者を雇い偽装しただけの集団。指揮官の命令は命より重いはずがなく。
切り込み隊の電光石火の活躍と二手に分けた本隊の合流の挟み撃ちで、砦はあっという間に取り戻せた。
地形や天候を熟知しただけでなく、傭兵の性質を利用した心理戦も効果を挙げたらしい。
そして、王太子殿下はそのまま公爵邸を目指し、馬を急がせる。
「え…本当ですか!?」
王太子殿下から聞いた信じられない言葉に、わたしは言葉を失った。
「ああ、あくまでフィアーナ王国の侵入はフェイクだが。酷い扱いを受けている公爵夫人と娘の令嬢を救う、という大義名分がある。そこで裏切ったノイ王国軍人襲撃と見せかけ、公爵邸を襲う…開戦のきっかけにはこの上ない口実だ」
つまり、フィアーナ王国側は元々嫁がせた姫とその娘を助けるため、やむを得ず軍を出した…という理由を出したということ。
「実際、公爵夫人アリッサは度々実家へ酷い扱いを受けている…帰りたいが許されない…と切々と訴える手紙を書き送っていた」