王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「それだけでない。公爵夫人は裏では香を装おった薬物と魔法石の違法な採掘で莫大な利益を挙げていた。薬物がノイ王国からフィアーナ王国へ流れていた、という証拠までご丁寧にフィアーナ側へ渡してある。つまり…自分の罪を夫に着せ、自分は被害者だと装おってフィアーナ側へ保護を求めたんだ」
メイフュ王太子殿下が明かした事実は、わたしが見聞きしたことと一致した。
サロンで初めて会った時、公爵夫人は怪しげな香を焚いていて。集った人たちは皆虚ろな目をしていた。
公爵夫人自身も尊大な態度で、フィアーナ王国を懐かしがるようにノイ王国のものを嫌って。フィアーナ語しか喋らずにいた。
そして、公爵は娘が帰っても一言も喋らず顔を見ることもしなかった。
質素を旨とする実質剛健なもと辺境伯の公爵と、元は王族の血を引くプライドの高い派手好きな異国のお姫様。
その結婚はもしかしたら不本意なもので、最初から上手くいくものでなかったのかもしれない。
宿舎の図書室で閲覧した貴族名鑑で知った。
お二人のご結婚は今から17年前の新暦783年6月30日。けれど、アリス様のご誕生は半年後の同年12月20日。
たった半年後に生まれたにもかかわらず、アリス様は玉のように立派な赤ちゃんだったという。
つまり……公爵夫人は元々懐妊していた、という疑惑がある。
そして、公爵夫人は娘を王太子妃にするため莫大なお金をかけ娘を自分の意のままにする人形に仕立て上げようとした?
ぼんやりするアリス様から、度々あの香と同じ甘い匂いがした。もしかしたら、あの香は人を操るような効果のある薬物かもしれない。そして、アリス様があの香のせいでご自分の意思を奪われていたとしたら?
アリス様をずっと人形のようだと感じていたけれど、王太子殿下の客室で会った彼女はむしろさっぱりした気性だった。あれが本来のアリス様なんだろう。