王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
数本の矢が王太子殿下を襲ったけれど、素早く抜刀された殿下はそのまま矢を薙ぎ払った。
けれどまた数カ所から矢が飛来するのを感じたわたしは、すぐさま風の術を発動させた。
(風の壁を周囲に展開!!)
ゴウッと吹き上がる風がわたし達の周囲を包み込み、バラバラの方向から来た矢をことごとく阻み落とす。
ホッとする間もなく次は刺客の襲撃があり、
やむを得ず王太子殿下は刃を振るう。王太子殿下とカインさんの獅子奮迅の活躍もあり、無事に公爵邸に到着した時には。屋敷にすでに火の手が上がっていた。
「リリィ、おまえはここで待っていろ!」
「……はい。でも」
王太子殿下の命令には逆らえないし、白兵戦でわたしは足手まといになる。そう考えたわたしは、サラさんから渡されたペンダントを王太子殿下に託した。
「……サラさんからいただいたもので、“闇”と魔術の耐性を高めるそうです。せめて、これをお持ちください」
「ああ、ありがとう…リリィ」
王太子殿下はわたしへ向き直り、キスをしてぎゅっと抱きしめられた。
「必ず、おまえのもとに戻る。だから、ここで待っていろ」
「はい…ご無事で。必ずお戻りになる、と信じています」
王太子殿下の命令で目立たないようにと護衛は最小限にとどめ、一時は厩舎に隠れたけれど。
逃げまどう人たちがいるのを黙って見過ごせなかった。
「マルラ、カイン。悪いけど、避難を誘導してあげて。手が空いてる人はケガ人の手当てをお願い!」
「リリィ!あなたは…」
「わたしはいい!あっ」
火矢がこちらへ向かっていくつも飛んでくる。風で落としたら、木造の厩舎に燃え移ってしまう。そう判断したわたしは、風と水を組み合わせた術を咄嗟に出した。
火矢を風の壁で防いだ後、渦を巻いた水で包み込む。思いつきだったけれどなんとか火が消えて、事なきを得た。