王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
皆、わたしの頼みに協力してくれた。
馬が居ない厩舎がちょうどいい救護所のようなものになり、敵味方関係なくケガ人を受け入れる。
カインさんの部下10人ほどが警護をし、別部隊の衛生兵と看護兵の助力があったお陰だ。
わたしも警護が対処できない魔術での防衛戦と、たまにケガ人の手当てに追われる。
やはりこの場で対応しきれない重傷者もいて、その場合はわたしがサラさんのノートの内容を思い出しながら止血等を施した。
(不思議…いくらでも魔術が使える。体の底からポカポカと暖かい…)
そっとお腹を押さえると、不思議なことにトクンと鼓動を感じた。自分ではない鼓動…。
(見守っていてね…きっと、きっとみんな助けるから)
トクン、とまた小さな鼓動が答えてくれた気がする。
「リリィ様、次はこちらをお願いします!」
「はい、わかりました!」
自分のできることを、精一杯やろう!
「担架は丈夫な木の棒二本にシャツをとおせば作れます。最悪ロープを編んでも…消毒が足りないなら、蜂蜜を塗れば殺菌力があるので代わりになります。傷の被覆はガヤの葉を使ってください。腹痛は木の根元に生えているパァームの根を噛じればいいです」
今まで得た知識をムダにしないため、頭をフルに使って対処をしていった。家庭の知恵みたいなものでも、バカにはできない。
王太子殿下は無事か、と時折不安になるけれど。自分が無事を信じなきゃ…!と一生懸命自分を鼓舞した。
王太子殿下も必死に戦っていらっしゃる。わたしも頑張らないと…!!たまに襲い来る吐き気と戦い、必死に目の前にある役割をこなす。
どれくらい経っただろう。
屋敷の火がかなり広がった頃、一人の中年女性が転がり込んできた。何度か見たことがある…アリス様の侍女だ。
火傷を負った彼女から甘ったるい薫りがして。わたしを見た途端、必死にすがってきた。
「アリスお嬢様がまだお屋敷に…!お願いします!!アリスお嬢様をお助け下さい!!」
そう叫んだ彼女は、そのまま気を失った。