王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「罠だな」
カインさんがそう断じたくらい、わかりやすい誘導だった。
「……そうだろうね、でも」
手当てを終えた侍女の苦しげな顔を見て、わたしは結論を先に言った。
「わたしは、行くね。この人のアリス様を想う気持ちは本物だよ…方法は間違ってるし驕りもあったかもしれないけど。きっとアリス様をずっと見守ってきた人だ」
アリス様は…政略結婚で生まれた。けど、たぶん父親は公爵じゃない。だから公爵は疎んじ無関心なんだろう。最初から冷え切った夫婦仲で、楽しい思い出なんてあったのかな?
母親は自分の人形として、アリス様自身を見なかった。必要としなかった。
そんな冷たく無機質な毎日で…唯一気にかけてくれたのが侍女たち。
きっと、お互いに離れられなくなってた。
「リリィ、危ないよ!」
マルラも必死に止めようとしてくれる……でも。
屋敷の方から、“闇”の蠢きを感じる。
サラさんに取り憑いたものとは比較にならないほどに大きい。
「……わたしが行かなくちゃ、終わらない気がするの…だから…ごめんね」
止めようとした人たちを風で足止めをし、一大決心で屋敷に向かう。
道中はひどい有り様だった。
あちこち破壊され、火が放たれて燃えてる。見たくないけど、もはや動かない人たちもいて…。
なるべく足早に別邸を目指した時、煙と熱で刺客の接近に気付くのが遅れた。
「お覚悟…!!」
「!」
咄嗟に風を展開したけど、白刃が目の前に迫る。間に合わない…!
覚悟をした一瞬、突然刺客は無言で明後日の方へ倒れる。
へなへなと腰を抜かしたわたしの前に、銀色の鎧を着たシルバーブロンドの美人。あれ?この人は…。
「大丈夫だった?」
「ろ、ローズさん!?」
アリス様の侍女だったはずのローズさんが簡素とはいえ鎧を身に着け、帯剣までしてるのが意外だけど。なんだかドレス姿よりしっくりときた。