王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
戦いの終わり。そして…


別館の地下に、その広大な空間はあった。


「……あちらね。古びてるから十分に気をつけて」

ローズさんが言うとおりに、新しく建てられた別館と違い、地下に通じる階段はずいぶん古くひび割れ苔むしてる。
彼女が手にしたランタンを頼りに、一歩一歩慎重に足を進めていく。

カビ臭い階段を降りきった先には壁があり、一見何も無いように見える。
けれどローズさんがランタンを翳し呪文を詠唱すると、重い音を響かせながら壁が動き先の道が見えた。

「…!」

“闇”の気配が今までに無いほど濃く、強い圧迫感になって襲ってくる。自分のなかにある“闇”がそれに引かれて蠢きだそうとするのを、必死になって押さえた。

でも、ローズさんが小さく詠唱をしてわたしの背中に手を当てると、不思議なことに“闇”が静まり返った。

「ありがとう…ございます」
「いいのよ。それより先を急ぎましょう!」

ローズさんが少し焦り気味に早足になり、わたしは追いかけるのに一生懸命にならざるを得ない。

(……鍾乳洞?こんなところに……)

黙々と進んでいくと、あちこちから雫がしたたり落ちる音がする。石灰岩が長年作り上げた奇岩の宝庫である鍾乳洞が広がっていた。

足元には水が流れ落ちていて、ランタンの光に反射し水面が輝く。二人分の歩を進める水音が響き渡り、ローズさんが足を止めた先…まるで椅子のように窪んだ場所に、アリス様の姿があった。

「アリス様…!」
「近づかないで」

駆け寄ろうとしたわたしを片手で制したローズさんは、足元の小石をアリス様の近くへ投げる。すると、シャッと多数のナイフが地面に突き刺さった。

「…罠があるわ。よほど近づかせたくないようね。つまり…重要だって暴露してるようなものよ!」

剣を構えたローズさんはその場から跳び、次々と飛んでくる罠の刃をくぐり抜け、あるいは叩き落とし、薙ぎ払う。
そして、無事にアリス様のもとへ辿り着いた。



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