王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「…あんた、嘘をついて試験を受けたな?」
冷え冷えとしたカインさんの問いかけに、ビクッと体が揺れた。
「“健康な体であること”ーー受験資格の第一項に記載があったはずだ。虚偽の申請は重大な違反だ。きっちり報告させてもらうぞ」
「…っ」
カインさんの言うとおりだから、言い訳なんてできない。
3日間の試験ではなんとか発作無しにやり過ごせたけど…たまたま、運がよかっただけ。
ひどいと毎日こんな発作が起きる…。流行り病にかかって治癒して以来、起きるようになった。
原因は不明で、一度無理して院長先生がお医者さんに診せてくれたけど。どこも悪くない、太鼓判を押せるくらいの健康な体だよ。との診断だった。
ベテランの薬師さんでも首を傾げるけど、調合してくれた薬でなんとか症状を和らげることができるから、働くのに支障はないと思ってたけど。
今まではからす亭という馴染みの人たちばかりの場所で働いていたから、発作が起きても大目に見てもらえたけれども。王宮という国の中枢で働くなら、甘えは許されないだろう。
「…確かに、わたしには発作がおきます。でも、薬を飲めばすぐによくなります」
「“でも”?言い訳が通用すると思う甘い世界と思うのか?」
「いえ…」
カインさんの厳しい声音に、マルラが反発した。
「なんで!?あたしがすぐ助けるからいいじゃない!それに、毎日起きるわけじゃないんでしょ?」
「いちいち助け合う仲良しごっこがしたいなら、村に戻れ。王宮では自分のことは自分自身で解決してもらう。あんたらは、仕える側の自覚がないのか?」
カインさんはマルラにすら、突き放した言い方をした。これが本来の対応だろう。むしろ、言ってくれるだけ親切だ。
これは、もうダメかもしれない…
半ば諦めうつむいた私の耳に、意外な声が聞こえた。