王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

ちょいちょい、とローズさんが手招きをしたから、わたしも彼女のもとへ小走りで向かった。

「アリス様!大丈夫ですか…!?」

わたしが呼びかけると、数度瞼が動いた後にアリス様の目が開く。
そして、彼女はぽろぽろと涙を流した。

「……お願い…わたくしを…殺して」
「…えっ!?」

意外過ぎる願いにわたしが固まっていると、ローズさんが膝を着いてアリス様に話し掛けた。

「どうしてかしら?なにかつらい事があったの?」

流石にローズさんは頭ごなしに相手の言葉を否定しない。わたしが助けられたのと同じだ。

「わたくしは…お父様の本当の子どもではない……本当の公爵令嬢などではないのです。だから、お父様がわたくしを愛さないのは当然…でも、お母様は……わたくしを道具にしか見ていない。自分の形代(かたしろ)としてノイ王国の王太子妃になり……王后となり中枢を把握せよ…と。わたくしにフィアーナ王族の血は薄い。純粋な王族よりは警戒されないから、内部からノイ王国を乗っ取り……いずれフィアーナから再度独立した王国として強引に併合する…そしてご自身が女王に…と。お母様は、そんな野心を抱いてしまわれたのです」

さめざめと泣きながら全てを明かしたアリス様は、もう自分には何もありません…と悲しそうに呟いた。

「この屋敷は真のわたくしの家でなかった…いつも冷たくて、拒絶されている気がした。お父様から憎まれ、お母様からは道具扱いされる…そんな人生が嫌になりました。苦しくてお母様の与えてくださる香に逃げていましたが…もう、いいのです。これ以上生きていても仕方ない…」

そんなアリスさんに言うべき言葉が簡単には見つからない…でも、なにか言わなきゃ…と口を開きかけた時。

盛大にわたしの体から音が鳴った。

ぐうううぅ〜……。




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