王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
どうやらアリス様は少し思い直してくれたようでよかった。
けど、彼女はローズさんを見て目を見開く。何か驚く様な事があった?とキョロキョロ周りを見渡すうちに、アリス様はドレスの端をつまみ貴人に対する一礼をしてる。
「よく存じ上げぬとは申しても、大変失礼致しました。フィアーナ王国ファニイ女王陛下」
え?ファニイ女王陛下…女王陛下!?
恐る恐るアリス様の一礼する先をみると…やっぱり、その相手はローズさん…もとい。ファニイ女王陛下で。
(思い出した!確か、カインさんが見せてくれたシャシンに載ってらした…!)
シャシンに写っていたのが10年前とはいえ、今も変わらずにお美しい。フィアーナ王国女王陛下なら、見たことがあって当然だった…。
「わ、わたしも失礼いたしました!」
慌ててアリス様に倣い敬礼しようとすると、ファニイ女王から「駄目よ」と止められた。
「リリィ、あなたは無理な姿勢はとらなくていいわ。お腹の子に悪いでしょう。それに、今は非常事態よ。身分は関係ない。みんなで力を合わせ難局を乗り切らねばなりません…アリス、よかったらこの先案内してもらえるかしら?私たちでは不案内だから」
女王陛下の願いに、アリス様はぐっと息を飲んだ。迷うのは、そりゃそうだ。いくら冷たく親らしくなくても、やっぱり血の繋がる実の母を渡すような真似をすることになるんだから。
でも、アリス様は躊躇いを見せたものの…しばらくして思いきったように口を開いた。
「……お願いします。お母様の暴走を止めてください!お母様は……10年前の大厄災を再現するつもりで、怪しげな研究を重ねてきました。嫁いできた時に見つけたこの鍾乳洞には、古代の呪いの施設があったのです。お母様は、“闇”の呪いをより強力に発動するため…莫大な研究費を賄うため…薬物売買や許可のない違法な採掘に手を…豪奢な生活はあくまでカモフラージュで…フィアーナ王国に傀儡の副王を仕立て上げると、ノイ王国に食指を伸ばそうとしたのです」