王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「……そうか」
メイフュ王太子殿下は一度目を瞑り、大きく息を吐いてわたしを片手で抱きしめてくださって。彼の力強い逞しさ、ぬくもり、そして太陽のような香りを、涙が出るほど嬉しく感じた。
確かに、殿下はここにいらっしゃる。生きてる…。やっとそう実感できた。
「……すまなかった、リリィ。余裕がなく苛ついて怒鳴ってしまった」
「……いいえ。あなたがわたしを想っておっしゃった事は解ってます。だから、平気です」
殿下にしがみつくように抱きついた。もう、離れたくない…!!
「……すみません、もう限界です!これ以上抑えられない!」
ロゼフィン様が叫ぶと同時に、ドーム型の障壁が破られ“闇”が溢れ出す。
アリス様にはサラさんのペンダントを身に着けさせ、メイフュ殿下が結界を施して隅に退避させた。当分はしのげるはず。短期決戦でいかなきゃ!
「はっ!」
王太子殿下がわたしを抱えて跳び、剣を振るって“異形のもの”を斬る。聖なる加護を受けた剣により姿を変えたものは“闇”が浄化されるけど、噴き出した“闇”が再び取り憑き元通りになってしまう。
「きりがない…!リリィ、無理はしてほしくはないが、目の前にある“闇”は浄化できるか?」
王太子殿下が、初めてわたしを頼って下さった!わたしの努力を認められ、ようやく少しでも恩返しができる。その事で胸が一杯になりながら頷いた。
「はい、大丈夫です!!」
「……頼んだぞ。だが、決して無理はするな
」
気遣う顔の殿下に、笑って頷いた。
「そういう殿下こそ、無理はなさらないでくださいね…わたし“たち”のために」
わざと仄めかして見れば、殿下のお顔がたちまち赤くなって……。
「…い、行くぞ!」
と、照れを隠すようにぶっきらぼうにおっしゃった。