王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「光よ!」
「はあっ!!」
わたしが“闇”を浄化し続けて王太子殿下が剣を振るって斬ると、しばらく浄化の効果が続く。そんな形で“異形のもの”の数を減らしていった。
“異形のもの”は、“闇”から湧き出すのではなく、その場の生命あるものが取り憑かれ変化する。だから数に限りがあるので、確実に数を減らしていけた。
ファニイ女王陛下とロゼフィン殿下も、協力して“闇”の噴出をなるべく抑え浄化に努めてらっしゃる。やがて濃い“闇”の中で姿を現したのが、異形と化した公爵夫人だった。
豪奢なドレスを身に着けてはいるけど、下半身は黒々とした鱗のヘビで、上半身はトカゲのような姿かたち。爛々と輝く紅い双眼は、わたしが何度も感じた不気味で冷たい視線そのものだった。
『クッククック…無駄な足掻きを。もうすぐ破壊王様が降臨される…世界を“闇”で満たし、破壊しつくす。わたくしのための新しい世界を作るために…おーっほっほっほ!!』
公爵夫人の口は尖った耳まで裂け、牙がのぞいた口からはヘビのような舌がチロチロ動いてる。髪すら意思を持っているように黒く蠢いて…もはや、完全に人の姿ではなくなっていた。
「バカなことを…!今ある世界を壊して、ご自分の願いだけを叶えるおつもりですか!?」
ロゼフィン王配殿下が厳しい顔で問い詰めると、公爵夫人はは!と鼻で笑い飛ばした。
『当たり前でしょう?元々人間なんて醜い存在……わたくしだって…清らかだと信じていた時代(とき)はあったわ…』
ふふふ、と公爵夫人は笑う。
『今は思えば愚かだったわ…何も知らずぬくぬくとぬるま湯で育ったわたくしは、きっと物語のように素敵な殿方と結ばれると思ってた…でもね』
ふん、と公爵夫人は鼻を鳴らす。
『わたくしの家に野盗が押し入り、お母様もお父様も殺され…わたくしは辱められたの。…そして、ならず者たちの誰ともわからぬ子を身に宿したわたくしは、一族に厄介払いされたの。政略結婚の都合のよい駒という形でね!わたくしの人生は、めちゃくちゃにされた!ねえ、それでもわたくしが悪いと言えるのかしら!?』