王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
公爵夫人の意外過ぎる悲しい過去に、誰も何も言えなかった。ううん…いくら正論ぶったところで、その深い傷を抉るだけ。苦しめるだけだ。
『おまえたちも…いずれわかるだろうよ!人間がいかに身勝手で愚かなのか…を!!』
公爵夫人はアハハハハ!と気が狂ったように笑う。
『ファニイ女王…あんたも未婚の母とはやるじゃないか?』
「……」
『自分が王女と知らなかった戦士時代、唯一愛した男と一夜を交わし別れ…そして身籠った。形見は妹と偽り育てた…悲しいねえ、本当のことを言えなかったのは。
ロゼフィンだってさ。どうだい?ファニイの中にはまだ愛した男の面影がある…決して忘れられない。それでもあんたは、ファニイがあんたを愛してると自信を持てるかい?未婚の母を選択したほど強く愛した男に勝てると思うのかい?』
なぜか公爵夫人はファニイ女王陛下とロゼフィン殿下の心の中を覗いたように、二人の詳細を語った。
『……おや、動揺したかな?おかしいね。あんた達は固い絆と深い愛情で結ばれているはずじゃないか?相手を信じられない?どうしてかしら?自分の気持に自信が持てない?なぜかしら?相手の過去なんて、本当に愛してるなら関係ないんじゃなかったかしら…?』
愉しげに言う公爵夫人の声は弾んでる。二人を嘲笑うかのように…。
わたしはどうしても許せなくなって、術を発動させた。
「……風よ!」
ゴウッと渦巻いた風は公爵夫人に襲い掛かるけど、“闇”に、物理的な攻撃や魔術は効かない。
けど、公爵夫人は意外な表情をした。
わたしに憐れみの目を向けてきたんだ。
『……ああ、リリィ。可哀想な子……』