王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「隊長、お待ちください」
サラさんがなぜかわたしの胸の辺りをジッと見つめながら「失礼しますね」と一言断り、そこに手を翳す。
(ーーえ?)
サラさんの手のひらが触れるか触れないか、の距離まで近づくと。胸の辺りの肌がほんのり暖かくなる。しかも、仄かに輝いているようにさえ見えた。
そして不思議なことに、あんなに重かった体が軽くなっていく。呼吸も落ち着いて、いつもより早く発作が治まった。
「…なるほど」
手を引っ込めたサラさんは、軽く頷いてカインさんに向き直った。
「隊長、リリィさんは至って健康な体です。発作に似た症状が起きるのは、彼女自身の責任ではありません」
「……」
サラさんの報告を渋面で聞いたカインさんは、これ見よがしに大きなため息をついて彼女に言った。
「ならば、貴官がすべてにおいて責任を持つんだぞ」
「は!」
サラさんがカインさんに敬礼をする。彼女がドアが閉めると、しばらくしてから馬車が動き始めた。
どうやら王宮行きは再開されたらしく、ホッと胸を撫で下ろした。
どう考えてもサラさんのおかげ。わたしは彼女に向かい、ペコリと頭を下げた。
「あの…サラさん…ありがとうございました」
「いえ。それより、これからはわたくしどもに頭を下げたりなさらないでください。あなた様が頭を下げる相手は君主であられる国王陛下、王后陛下、王太子殿下方でございますよ」
「そ、そうなんですか…」
「それより、よかった!リリィが帰されたらあたし寂しいもの。一緒に王宮にいけて嬉しい!サラさんに感謝だね」
マルラがはしゃいでるうちに馬車は街道へ入り、王都への2週間の旅が始まった。
途中馬車に酔ったり、ならず者に襲われかかったり…いろんなことがあったけど。出発して半月後、無事にノイ王国の首都オレバへ到着することができた。