王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「オレは、そうやって自分に正直なおまえが好きだ」
(……わたし、も……)
「オレが惚れたんだ。いい女だろう?」
(わたしも、自慢したい…あなたがどれだけ素敵な男性(ひと)か…)
「改めて言わせてもらう…オレは、おまえが好きだ」
(……わたしも、です…)
「リリィ、オレはおまえが好きだ。オレの隣にいて、ともに歩んでほしい。オレはおまえを一生護りたい」
(わたしもです…!殿下…わたしも好きです…一生そばにいたい!!)
「もちろんだ。一生そばにいてくれ」
思い出す…
王太子殿下のぬくもり。
力強さ。
逞しさ。
優しさ。
眼差し。
太陽のような香りに…
どこまでも深い、愛情を。
「オレは、オレ自身よりおまえが遥かに大切だ。おまえを護りたい…なぜ、それがわからない!?」
「わかります…殿下、わたしは…あなたが伝え続けてくださった全てで感じていました」
目を開けると、周りにあったどす黒い泥のような“闇”は、清らかな水のように澄み切っていた。
水面から、あたたかな光を感じる。
(帰りたい…みんなのもとに…)
『……うん、いいよ』
(……え?)
『ようやく気付いたよね……あなたの大切なものを、一番大切なものを』
(そうね…わたしは過去にばかり囚われていた。だけど、今のわたしの周りにはこんなにもあたたかくて優しい人がいる…)
『そうだよ…人のこころは残酷だ。でも…同時にとても素晴らしい。それを忘れないで…』
(うん……だから、わたしは帰る。みんなのところへ。わたしもみんなみたいになりたい…全てを良くしたいから)
水面下の光が小さな子どものような形になり、手を差し伸べてくる。その手を取ると、ふわりと体が浮いて一気に水面に近づく。
まばゆい光のなかで、微かに声が聴こえたーー。
『……それでいいよ……また、逢おうね……おかあさま……』