王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「……リリィ」
殿下が…呼んでる。
わたしの殿下が…
その声に導かれ、ひたすらまっすぐに進んだ。
「……リリィ!」
「…………」
ぼんやりした視界に入ってきたのは、綺麗なブルーグリーンの瞳。
「……メイフュ…殿下……」
「リリィ…よかった!」
ぎゅっと抱きしめられて、そのぬくもりに涙が出そうになった。
「ごめんなさい…わたし…弱くて……“闇”に囚われかけて……」
「いい!弱さもあるのが人間だ。それだからおまえが愛しい…リリィ」
「殿下……」
そうだ。この方は…ずっとずっと、わたしを否定しなかった。いつでもどんなわたしでも受け入れてくれる。どこまでも大きな方…
恐る恐る殿下の背中に手を回すと、遠慮がちに抱きついた。けれど…その感触が不自然過ぎた。服がズタズタになり、生ぬるい感触に鉄錆のような臭い…
「……殿下!お怪我を!?」
「大した事はない。気にするな…クッ」
王太子殿下は笑顔で大丈夫とおっしゃるけれど…突然黒い刃が無数に飛んできて、殿下は辛うじて剣ではたき落とすけれど。数が多すぎるせいで腕をかすり、血が出てしまっている。
よくよく周りを見ると、実体化した“異形のもの”が、武器を持ってわたしたちを取り囲んでいた。ファニイ陛下もロゼフィン殿下も、善戦はしているけれど…多勢に無勢。浄化だけで手一杯の様子。一進一退の攻防戦を繰り広げていた。
アリス様は辛うじて“異形のもの”に気付かれてはいないけど……結界が薄くなっている。時間の問題だ。
(わたしが…“闇”に囚われていたから。でも)
自分のせいだ、と落ち込む時間があるならば、今はできることをする。わたしがやれる精一杯を。
大切な人たちを、護るために。
そして、わたしはキッと公爵夫人を見上げた。