王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
『よく、還ってきたものだ…弱い思うたのに』
公爵夫人がわたしを嘲笑う。
「ええ、確かにわたしは弱い…それは否定しないわ。でもね…」
わたしは、公爵夫人へこう告げた。
「人は、みんな弱いの。一人だと弱い…それが当たり前なの…アリッサ公爵夫人、あなたもね」
『何を…!』
公爵夫人の目が、更に釣り上がった。
『わたくしが弱いだと…?世迷い言を!!』
「ええ。あなたは…どうしてアリスさんを生んだの?」
『!?』
公爵夫人が、訳がわからないという顔をした。
『なにを…!あの時は仕方なかった!身籠ったまま嫁がされ…産むより他なかった!おまえに何がわかる!?愛し愛される喜びを知るおまえになど…!』
激しい憎しみ…視線とともに何度も感じたそれは、やはり公爵夫人の憎悪だった。
「……つらいことを訊いてごめんなさい…でも、あなたがなぜアリスさんを生んだか…わからなかった。でも…わたしも身籠ったからわかるんです…」
そっと、お腹に手を当てた。
「……愛おしいんです。もうひとつのちいさな命が……アリッサ公爵夫人、あなたも少しはそう感じていたのではないですか…?だから、アリス様を産んだ……」
『……』
公爵夫人の動きが止まった。
と同時に、“異形のもの”たちも停止する。
「お母様……」
アリス様が、一歩一歩母に近づいた。青い顔で震えながらだから、相当勇気を振り絞っているんだろう。
でも、その勇気は小さな奇跡を起こす。
「わたくしはいつも寂しかった…お母様にもお父様にも愛されなくて。わたくしは要らない人間なのだと思ってました…でも」
アリスさんはゆっくりと、母を見上げた。
「お母様は、乳母(ナニィ)を自ら選んでくたましたよね。何人も何人も面接をして…わたくしを預かるに相応しいひとを選んでくださった…そして、思い出しました。雪の日…エリアに外に出されたわたくしを抱きしめ…看病し…ミールの粥…フィアーナの病人食を作ってくださったのは…お母様だった…ということを」