王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
『……思い出したのか…記憶をすり替えたの、に…』
「はい…お母様……わたくしはずっとずっと愛されていないと思ってました…でも、お母様はお母様なりに…わたくしを愛してくださった…思い出して…ようやく、わかったのです」
そして、アリスさんは母へ向かい、両手を伸ばした。
「お母様…わたくしがいます。娘のわたくしがおります…わたくしは、お母様を裏切ったりしません」
クワッ!と公爵夫人の両目が開いて、噴き出した“闇”が刃となり、アリスさんを襲う。
けれど。
アリスさんは全てを受け入れるように微笑み、両手をいっぱいに広げた。
「お母様…わたくしは、あなたを愛しています。あなたの全てを受け入れます」
『……!!』
ピタリと、“闇”の刃が止まった。
「一人だと弱い…でも、人は独りじゃないんです…公爵夫人…必要だから…必要とされるから…強くなれる…あなたは、独りじゃなかった」
わたしがそう語りかけると、公爵夫人の目から見る間に涙がこぼれ落ち…後から後から、透明な雫が落ちてゆく。
「……今です!“闇”を、封印!!」
「たあああっ!!」
ロゼフィン殿下が新たな魔法陣を生み出し、公爵夫人を中心として展開する。ファニイ女王陛下が呪文を詠唱し、魔法陣に膨大な魔力を付加していった。
『きゃああああ!!』
「お母様!!」
“闇”が公爵夫人の中で暴れ回り、彼女は凄まじい形相で苦しんでいる。
けれど、少しずつ少しずつ“闇”が剥がれ落ち浄化されていった。
「リリィ、オレたちも加勢するぞ」
「はい!でも…殿下はお怪我は大丈夫ですか?」
メイフュ王太子殿下が心配で訊くと、彼はニヤッと笑い突然わたしの唇を奪った。
「オレは、エロ王太子だからな。これで充電完了だ」
「……もう」
こんな時に、呆れるやら…でも。彼なりの緊張を解く方法で。
自然と、口元が緩んだ。