王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「ご結婚、おめでとうございます」
「ありがとう、サラさん」
サラさんも記念パーティーに出席してくれてよかった。
車椅子生活に変わりはないけど、最近は少しずつ歩行訓練をしているみたいだ。
深いブルーのサテンドレスは彼女によく似合ってる。
傍らには図書室司書のキリさんが付き添っていたけど。何だか様子が…
「サラ、水は足りてるか?レモンパイ持ってきたぞ。クリーム付きな」
「ありがとう、キリ」
お礼を言ってお皿を受け取ろうとしたサラさんの左手薬指には、控えめながら輝く指輪が…。
「ダメダメ、おれが食わせてやるから。ほら、あ~ん!」
「ば、バカ!こんな場所で…もう動けない時とは違うのよ!」
頬を赤らめたサラさんに、気になったわたしは思わず訊ねた。
「……あの…サラさん……もしかして……キリさんと?」
わたしが指摘した瞬間、サラさんの顔が瞬時にこれ以上無いほど赤くなる。キリさんがポリポリと頬を搔いて、あ〜…と唸った。
「…まあ、成り行きではないな。おれはずっと好きだったし」
「…キリ!!」
サラさんが真っ赤っかのまま咎める声を上げると、キリさんはヘヘと笑った。
「婚約破棄はガックリきたけどさ…おまえらしかったし。こういう状況に付け込むのは卑怯だと思ったけどさ…おまえを一生支える資格が欲しかったんだ」
「……キリ」
しばらくワナワナ震えていたサラさんは、ふう、と息を吐いて観念したようだった。
「あ、あ、ありがとう…」
やっぱり素直じゃなかったサラさんは、そっぽを向いてたけど。口元が綻んでいるのが見えて。ようやく彼女にも幸せが訪れたんだ…とこちらも嬉しくなる。
「実は、あの戦いでサラさんの魔術の理論やアイテムがすごく役立ったの。今度魔術師養成所を作るから、サラさんには魔術の先生として。キリさんは図書館司書兼先生としてスカウトしたいのだけど」
「……わたくしでよろしいのですか?」
「はい。サラさんが一番の適任ですから」
わたしが頷くと、サラさんは頭を下げて「わたくしどもでよろしければ、喜んでお受けいたします」と言ってくれた。