王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「メイフュ、結婚おめでとう〜!」
赤茶色のくせ毛。日に焼けた肌にそばかす。丸い顔。小柄でふくよかな体。
明るい声でこちらへ駆けてきた女性を見た瞬間、“このひとだ!”ーーと、わたしは確信した。
メイフュ王太子殿下がかつて強く想い、結ばれなかった女性。10年にわたる片思いの相手。
胸がざわめかない、と言ったら嘘になる。
だけど、わたしが繋いだ手に力を込めると、メイフュ殿下も握り返して下さる。
“大丈夫だ、オレを信じろ”……と。無言で言ってくださった気がした。
「久しぶりだな、クママル」
メイフュ殿下の声も、表情も、かつての愛しいひとの名前を呼んでも全く変化がない。静かで穏やかなものだった。
「ほんと、久しぶりだね!あ、あなたがメイフュのお嫁さん?」
ダークブラウンの瞳に見つめられた時、ちょっと緊張したけど。彼女は…クママルさんは、ふふっ!と明るく笑った。
「別に、みんなが言うほど似てないよ?強いて言えば…リリィさんの方が胸がおっきい!」
「え?」
思わず、ポカーンとしてしまった。胸?胸…胸って…
「あと、鼻はリリィさんが高いし、まつげも長い!あごもシャープだし…つまり、リリィさんの方が美人だよおぉ…」
頭を抱えながら身もだえるクママルさん…もしかしなくても、コンプレックスだらけ?
何だか気が抜けた…というか…身近に…というか。寧ろすごくシンパシーを感じる。
「あの…クママルさんの方が目が大きくて二重まぶたですし…かわいいですよ?」
「ホント?ありがとう、リリィさん!あなたすごくいい人だああ!!ね、よかったら友達になろうよ。あたし、ノイ王国の城下町に行ったことないんだ」
ガバっと抱きついてきたクママルさんはすごくフレンドリーで、いつの間にか友達になってる。
「おい、クママル。リリィを独り占めするな!今日はオレたちの記念パーティーだぞ?」
「ふふ〜んだ!あたしの方がリリィとラブラブだもんね。ね、リリィ」
「ふふ…そうですね」
「リリィ…後で覚悟しろよ?」
いい笑顔のメイフュ殿下からわたしを護るように抱きしめたクママルさんは、「魔王にリリィは渡せませ〜ん」とべえっ!と舌を出した。