王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
わたし達を迎えに来たのはお仕着せらしい紺色のドレスを着た女性。30半ばくらいかな?黒い髪をひっつめて、白い布で覆ってる。冷たい瞳で一瞥したあと、「こちらへ来なさい」と、スタスタと歩きだした。
問答無用で従わされたけど、彼女はどんどんと奥の方へ奥の方へ進んでいく。気のせいじゃなく、だんだんと調度が豪華に…そして、警備が厳重になっていくんだけど。
「あ、あの…?」
「お黙りなさい。これより先は、身分が低い者から上の方へ直に話しかけることは許されません。くれぐれも失礼がないようお気をつけなさい」
紺色のドレスの女性は何一つ説明してくださることなく、「お返事もできませんか?」と冷たく言うだけ。
わたしは短く深呼吸をしてから、背をまっすぐに伸ばし顎を引いて女性をまっすぐに見つめ、スカートを両手でつまんで軽く持ち上げ一礼。
「承知致しました。粗相が無い様、精一杯務めます」
「しょ、承知しました」
慌ててマルラもわたしに倣い、一礼をする。どうやら合格点だったらしく、女性は「よろしいでしょう」と頷いた。
「これからはあなた達だけでこのお部屋へ入ってもらいます。今の心構えを忘れずに」
そう言った女性は一歩下がり、代わりにサラさんがわたし達の前に進み出た。
「ここより、わたくしがご案内いたします。どうぞこちらへ」
3mはありそうな大きく重そうな扉が、両側の近衛兵の手で開けられる。大きな声で「マルラ・ガーネット。リリィ・ファール入来です」と告げられた先にあったのは、大きな空間。多数の円柱が両側に配され、緋色の絨毯が敷かれた先。一際豪奢な玉座には…ガラザ2世陛下の御姿があった。