王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
(国王陛下といきなりお会いするなんて、聞いてないよ!)
内心焦って頭が真っ白になりかけたけど、今は突っ立ってても仕方ない。しっかりしろ!と自分を叱りつけ、サラさんが膝を着いて軍式の敬礼をしたのに続いて、わたしもスカートを抓み臣下の礼を取った。
たぶん、マルラも大丈夫。
どうか、膝が震えているのを悟られませんように。
『長旅、大儀であった』
国王陛下が発された言葉に、ハッと気がついた。
『…いえ、陛下へ拝見叶いましたこと、光栄に存じます。ご尊顔を拝謁し、長旅の疲れも癒やされました』
『ふむ』
頭を下げていたから表情まではわからなかったけど。ガラザ2世陛下は満足そうな声を出された。
『そなた、フィアーナ語も解するか』
『ほんのさわりでございますが』
『他には?』
次は、バフィーク語…か。
わたしは、あえて公用語であるノイ語で答えた。
「お恥ずかしながら、今のところはこちらも不勉強でございます」
『これだけ解せれば十分だと思えるがな』
『わたくしは未熟者でございます。偉大なる国王陛下の庇護のもと、修練いたしたいと思います』
次にバフィーク語で答えると、ふふ、と国王陛下は小さく笑われた。
「よい、面を上げよ」
許されて初めて顔を上げて国王陛下のお顔を拝謁した。武人だけあって大きな体だけど、四十代半ばにしては若々しい雰囲気。シルバーブロンドの髪をなでつけ、ブルーグリーンの瞳は優しげでホッとした。
国王陛下にしては質素な青い服に赤いマントを巻きつけ、王冠もシンプルで贅沢には見えない。
「大儀であった。今日はゆっくり休むがよい」
しばらく様々な会話をした後にありがたいお言葉をいただき、ようやく退出を許された。