王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「はあ…びっくりしたねえ」
そのままサラさんに女官専用の宿舎に案内され、割り当てられた部屋に腰を落ち着けてすぐ、マルラがため息とともにそう言った。
女官は基本的に相部屋で、マルラと同じ部屋はラッキーだった。人見知りはしない方だけど、やっぱり少しでも顔見知りの方が気が楽になる。
「そうだね。まさか、国王陛下にお会いできるなんて思わなかった」
「だけどさ、リリィ…なんかすごかったね。何カ国語も話してたし、なんか難しい話もしてたし。それに!マナーが完璧だったじゃない?どうやって覚えたの?」
あ、やっぱり疑問に感じたんだ、と微苦笑してからマルラに向き直り、ベッドに座った彼女に断ってから向かい側に腰を下ろした。
「わたしの働いてた“からす亭”のクレア姉さんね、もともとこのオレバで働いてたことがあったの。ちょうどわたし達と同じ16まで働いて…お金を貯めて故郷のブレークルート村に帰ったんだけど。礼儀作法や教養に厳しい職場で、その時覚えたことを徹底的に教えてもらったし。それに、オレバからもクレア姉さんの知り合いが定期的に来てくれて、みっちりレッスンしてもらえたんだ」
「なるほど。なら、さ!リリィ、あたしにも教えてくれないかな?宮廷作法はおばあちゃんが教えてくれた古いのしかわからなくて…」
マルラが遠慮がちに訊いてくるけど、彼女なら一も二もなくすぐに頷いた。
「いいよ。わたしで役立つならいくらでも教えてあげるから」
「やった!よろしくね」
ガバっと抱きつかれて…嬉しいけど、苦しいよ。しかも豊かなバストに顔が挟まれて…窒息しそうなんですけど。
「…マルラ、もしかして…胸、大きい方?」
「え、そうかな?別に普通だと思うけど…」
…うん。あたりまえに持ってる人はきっとわかりませんね…と、ちっとも成長しない自分の低い胸を恨めしげに見て、ため息をついた。