王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
今日はとりあえず休暇になってる。明日から始まる研修の前に、体をしっかり休めるためだ。
だけど1日も早く宮殿内のことを覚えたいわたしは、ひとまず宿舎の中を見て回ることにした。マルラもヒマだから、と一緒になって歩く。
女官用の官舎だけでも貴族の屋敷並みの建築物で、自然に見える生け垣と何重もの門で他の区画とはっきり区切られている。出入りするにも身分証明書や許可証が必要で、門番による検問すら行われてた。
広い敷地には池や東屋がある庭園があり、診療所や娯楽施設や売店等…ここだけで生活が完結しそうなほど、設備も充実してた。
「はあ…すごいなあ。なんかここにずっと住んでもいいかも」
「だよねえ…」
歩き疲れたわたしとマルラは、ちょうど見えたベンチに腰掛けて一緒に呆けた。予想以上の快適な環境は、かつかつで寂しかった故郷とは大違いだ。
「でもあたし、お給料は故郷へ仕送りするよ。みんなを助けるために働きにきたんだもの」
誘惑が多いだろうに、マルラはブレることが無かった。
「そうだね。わたしもある程度勤めたら、故郷に帰って孤児院を手伝いたい。今度はみんなに恩返しするんだ」
わたしも、したい事はたくさんある。クレア姉さんのお店を手伝いながら、孤児院で働いて近隣の子どもを助けられたら…。
フレークルート村に若い人は定住しないけど、外れの森への捨て子が多い。きっとやむにやまれぬ事情だろうけど…。
「ああら、余裕ねえ」
突然近くから甲高い声が聞こえてそちらを見ると、紫色の高級感あるドレスを身に着けた女性が、クスクス笑いながらこちらを見ていた。
切れ長の青い目はキツイ印象を受けるけど、細長の顔のパーツは整っていて、ものすごい美人さん。念入りにお化粧をしているし、結い上げた赤みがかった金髪にはたくさんのアクセサリーが輝いていて。おまけに周りには侍女が傅いている。
高圧的な雰囲気からも、どこかのお姫様に見えた。