王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

「え、そうだったんですか?」

マルラがきょとんとした顔で訊くと、エリスさんは小さく吹き出した。

「まぁ…お気の毒だこと。きっと何も知らされなかったのですわね」

「…はい。恥ずかしいことですが、何も。よろしければお教えいただけますでしょうか?」

わたしが腰を低くして頼み込むと、エリスさんは上機嫌で喋ってくれた。

「よろしくってよ。ノブレスオブリージュですものね。高貴な身分はその対価を庶民に払わねばならない…」

(ちょっと意味が違うような…)

わたしが内心突っ込んでいると、エリスさんは詳細を教えてくれた。

「王太子殿下がご婚姻されてないだけでなく、婚約者も決まってないのはご存じかしら?」
「…いえ」
「なんでも、王太子殿下には心に決めた方がいらしたのだけれども…その女性は別の有力な殿方とご結婚されてしまわれたとか。以来、どんな縁談もお断りになられて…御歳22になるにもかかわらず、恋人すらいらっしゃる気配がないそうですの。
つまり…恋に破れた王太子殿下は、今女性にまったく関心を持たれない。危惧した方々がお妃を決めるため、全国から身分にかかわらず様々な女性を募ったのですわ。
いろんな女性がいれば、もしかしたら王太子殿下のお心を動かす人がいないか…と。まぁ、一瞬であたくしが王太子殿下を虜にしますから、無駄なんですけど!オホホホ!」

ブレないエリスさんの高飛車はともかく、初めてこの女官登用試験に疑問を抱いた。

(最初からそんな目的があったなんて…だから、村長はやたら寵をもらえ!なんて言ってたんだ)

おかしいとは思ってた。筆記試験だけでなく、3日間かけて行われたのは、面接や教養やマナーに関する実技試験。他にもいろんなことをさせられたし、健康診断や異性に関する質問…そして、処女かまで調べられた。貴人にお仕えする女官だからスキャンダルはまずいんだろうな…と無理やり自分を納得させていたけど。やっぱり、こういう目的があったんだ。
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