王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
次の日から、早速女官見習いとしての生活が始まった。
朝は4時起きで素早く身支度を済ませ、お仕えする主君がお目覚めになるまで隣部屋で待機。それぞれの割り振られた役割をこなしていく。
とは言っても、勝手がわからないから今まで王太子殿下付きだった侍従さん達に着いて勉強する。王太子殿下の住まわれる王太子宮は宮殿から少し離れていて、森の中のような静謐な場所に建てられていた。
それでも部屋数は100はくらだない白亜の城のような趣だけれども。
「あなた方は本日より王太子殿下にお仕えいただきます。何事も殿下優先にてお仕えされますように」
昨日わたしとマルラを宮殿に案内して下さった紺色のドレスの女性は、女官長のミレイさんだったと初めて知った。わたし達の一番えらい上司なんだ。
ミレイさんと同じ紺色のドレスに身を包んだ女官候補の女性は王太子宮の広場に集められ、ミレイさんがあれやこれや説明してくれる。そして、ここで本来の目的がはっきりと言及された。
「すでに聞き及んでいる方もおいででしょうが、この登用試験は王太子殿下の妃選定にも影響がございます」
やっぱり初めて聞いた人もいるのか、ざわめきが広がる。
「お~っほっほっほ!この、凖男爵令嬢のあたくしが、王太子妃に決まってますけどね!」
「ブルースピア凖男爵令嬢、エリス殿。発言を許した覚えはありません。お黙りなさい」
女官長にピシャリと言われ、エリスさんはしおしおと肩を落としおとなしくなった。
「あくまで選ぶのは王太子殿下のご意思、ということを忘れずに。余計な駆け引きや犯罪紛いのライバル蹴落としは一切禁じます。何事も清く正しくを心がけなさいませ」
つまり、余計なことをしたら即追放だ、と女官長は釘を刺した。