王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「え〜!リリィって王太子殿下の御姿知らないの?絵姿くらい見る機会はあったでしょう?」
「う、だって…わたしには関係ないと思ってたから…」
結局王太子殿下は姿を見せなかったから、わたし達は勉強しただけで終わり。やむなく宿舎に戻る道すがら、王太子殿下はどんな方かな?と素朴な疑問を口にしただけで、マルラにとても驚かれた。
「信じられない!いいわ。確かあたしの荷物に、王太子殿下を描いたイラストの切り抜きがあったはず。先に部屋へ行って探しておくから、後からゆっくり戻ってきてね」
「う、うん…」
絶対だよ、と念を押したマルラは、スカートを靡かせて小走りに宿舎へ向かった。確か、あんまり人に見せたくないものもある…って言ってたっけ。
(長旅からあんまり休めず荷物も整理できないままだったからね)
初日の昨日はわたしの宿舎見学にも付き合ってくれたんだし…。
(ゆっくり歩くだけじゃなくて、散歩がてらあちこち寄ってみようかな?)
ふと思い立って、王太子宮から宿舎に向かう道から少々外れてみることに決めた。
王太子宮も深い森の中にあるような感じたけど。女官の宿舎はかなり近いと今さらながら気付いた。
(ずいぶん暗くなるんだ…)
建物や道はたくさんのランプで照らされて夜でも明るいけど、一歩外へはみ出すと木陰や草むらが多いせいか陰鬱な雰囲気が漂ってる。故郷の森のように…。
「ミャア」
「あっ」
短くかられた灌木の間から、猫が顔を出して鳴いた。夜の闇に真っ白な体は輝いて見える。
「どうしたの?お腹が空いたのかな?」
しゃがんで話しかけてみたら、猫ちゃんはまた「ミャア」と鳴いて灌木の中に潜り込む。
「どうしたの?」
「ミャア」
少し離れた場所から鳴き声が聞こえて、また進むと違う場所から…の繰り返しで、いつの間にかひと気がまったく無い場所に誘導された。
「猫ちゃん…?あ…!!」
「ミャア」
猫ちゃんがひと声鳴いたそばには、木の幹に背中を預けてぐったりした男性の姿があった。