王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

月の光が漏れる程度の明かりしかないなら暗くてはっきりと見えないけど、ボサボサの黒い無造作な髪型と薄汚れ擦り切れたシャツにズボン。靴はボロボロで穴まで開いてる。肌も念入りに汚れてるように見えた。

それに、お酒か汗かなにかか…ムワッとイヤな臭いが漂ってる。

でも、とわたしは具合が悪そうなひとのそばに膝をつき、ポケットから瓶を取り出しながら訊ねた。

「大丈夫ですか?気分でも悪ければ、これを飲んでください」
「ミャア」

心配そうな声を出す白猫ちゃんに、にっこり笑って見せた。

「大丈夫、あなたの大切な人は必ず助けるからね」

頑張って助け起こすと、「…さ、飲んでください」と、フタを開けた小瓶を口元に当てる。警戒するかと思われたけど、どうやら大丈夫だったみたいで素直に薬を飲んでくれた。

(このままだと体が冷えちゃうよね…)

春とはいえ、まだ4月はじめだから夜は冷え込む。とっくに日付けが変わりそうな深夜だし、どこか暖かい場所に…と思案して、閃いた場所があった。


「あ、リリィ。どこ行くの?王太子殿下の御姿はこれだけど」
「ごめん、ちょっと用事ができたから先に寝てて!」

宿舎に戻ると寝支度をしたマルラが待ってくれていたけど、すぐに謝って目的のものをかき集め部屋を飛び出した。
急ぎ足で向かった先は、たぶん非常時に使われるだろう小屋。警備が増やされる時に臨時で詰める場所だと思う。そこにあの体調不良の人を寝かせておいた。

王宮の敷地内に居たからには、身元不明の不審者であるはずがない。けど、こんなにぼろぼろの姿だと、さすがに不審がられるかもしれない…と思って。
ひとまず手持ちのものと、小屋にあるもので手当てしようと考えたんだ。

「ミャア」
「お待たせ。君もお腹空いたでしょう?ミルクしかなくてごめんね」

白猫ちゃんは主人を守るようにジッと見つめていたけど、わたしがお皿にミルクを注ぐと待ってました!と言わんばかりにすごい勢いで飲み始めた。

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