王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「あ、あたしがお手伝いさせていただきましたの!」
びっ、と片手を上げて元気よく疑問の答えをくれたのは、黒髪の女の子。東方系の顔立ちをしていて、茶色い瞳は好奇心に輝いてる。
背はわたしより少し高めかな?
黄色い膝丈のワンピースがよく似合ってた。
「はじめまして!あたし、マルラ・ガーネットと言います。オリディ村の出身で、この度の登用試験に合格して出仕が決まりました」
「え、あなたも?」
「はい!そこの方…カインさんがお迎えに来て下さったんです」
マルラさんが視線で示すと、カインと呼ばれた男性はにっこり笑う。さっきわたしに向けた冷たさとは違う…あたたかみのある親しげな笑顔だった。
「はじめまして!ご紹介にあずかりました、カイン・フリードホークと申します。一応、メイフュ王太子殿下の侍従兼近衛やってます」
カインと名乗った男性は、確かに凛々しい出で立ちだった。紺色の詰め襟の制服には金の縁取りの豪奢な刺繍がなされ、近衛師団特有の紋章があしらわれてる。肩には軍幹部に与えられる地位を示す金の紐…飾緒(しょくしょ)まで付いてた。
くすんだ金髪はしっかり整っていたけど、何だか軽薄な印象を受けるのは気のせい?
「いやあ、こんな美人さんばっかりに囲まれてボク、幸せだなぁ〜役得役得!ねえ、キミたち〜一夜の甘美な夢をボクの腕の中で見てみないかい?」
フッ、と前髪をかき上げながら流し目で言うカインさんの言葉を、クレア姉さんは白い目で流した。
「オホホホホ。寝言は寝てから言いなさいよ。なんなら、今すぐ永久に安眠させて差し上げましょうかしら?」
青筋立てて腕をバキバキ鳴らすクレア姉さん…武術の段持ちですよ。100kg級の男を投げ飛ばす怪力の持ち主ですよ。
案の定殺気を察したのか、カインさんは「ナンデモゴザイマセン」とカタコトで答えてた。