王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「おい、大丈夫か!?」
「……ッ」
大丈夫だと答えたいのに…声が、出ない。
胸が痛いくらい締めつけられる。息が…呼吸ができなくなってく。どろどろと溶けたような熱が身体の中で広がり、体が動かせない…。
「……これは、…の影響か」
男性が何か呟いたけど、苦しくて意味が理解できない。……けれども、男性の口から不思議な歌のような調べが聞こえてきた途端、身体の重さが緩和されていった。
でも、息苦しさが治ってくれない。
(苦しい……助けて!!)
なにかにしがみつかないと、崩れ落ちそうだった。必死に手を伸ばししがみついたものが何かを確かめる余裕なんて、あるはずもなくて。
唇に、柔らかくあたたかいものを感じた。
苦みのあるものが喉を通っていき、反射的に飲み込む。だけど、足りない…
もっと、とうわ言のように口走ってた。
頭が湯だったように熱い。さっきの熱が重さだけとれて、燻る炎が全身を焦がすように衝き動かす。
何度か、唇にあたたかさを感じた。だけど、苦しくて苦しくてたまらない。
自分のなかに、違う自分がいるみたいだ。気持ち悪い…お願い、わたしを助けて。
「……恨むなよ」
彼が、はっきりと呟いた。何が?誰を?
そんなの…どうでもいい。苦しいから、助けて欲しい。
「……お願い、苦しくてたまらないの…わたしを…助けて…解放して…」
涙で滲んだ月明かりの中で、何度もあたたかさを感じる。むき出しにされた肌に触れられるたびに、苦しさが和らぐ気がした。
意識は、はっきりしてなかったと思う。まるで靄の中を彷徨っていたようにぼんやりしていたから。
「……っ!」
痛みだけは、はっきり感じた。だけどきっと必要なことと自然に受け止めていたように思う。
身体の奥から溶けそうな熱を感じたわたしは、何もかもを感じなくなり意識が落ちていった。