王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
王太子殿下の事情
「…あ」
体に重みとあたたかさを感じて目を開けると、自分が裸ということに気付いた。
(あれ…わたし…いつの間に部屋に戻ってきたの?)
ベッドに寝ているというのはわかったけど、何だか寝心地が違う。シーツもきちんとしてるし、布団は軽く柔らかで…それに。
(え、天蓋がある…それに、この光景…見覚えが…)
ゆっくり、ゆっくりと思い出そうとしたけど。思い出したくない。自分がどこにいるかわかってしまえば、取り返しがつかない気がして…。
ブルーを基調にした落ち着いた室内と高価そうな調度品類。そして緋色の絨毯にクリーム色のラグ…
(ここ…もしかしなくても…王太子殿下の寝室…!)
ガバっと飛び起きようとして、自分のお腹に誰かの腕が巻き付いているのに気付いた。恐る恐る視線を移すと、横に寝ていたのは昨夜の男性。もしかしなくても…彼は王太子殿下だ。
(最悪だわ……は、早く逃げないと)
動こうとすると、お腹の奥に鈍い痛みが走った。起きた時から違和感はあったけど、思ったよりきついかもしれない。
なんとか腕を外そうと悪戦苦闘していると、気のせいかより腕に力が籠もっていく。焦るわたしの耳に、心地よい声が聞こえた。
「逃げるな、リリィ・ファール」
「……っ、で、殿下…」
名前を知られてショックだけど、わたしは思い切って殿下に向き直る。
「お許しください…わ、わたしはただの女官です…わたしのような者とこんな姿を見られたら…殿下の御名に傷が……」
「構わない」
メイフュ王太子殿下は、キッパリと言いきられた。
「おまえの発作を救うという差し迫った事情があったにせよ、おまえに手を出した責任は取る。いい加減な戯れで抱く事はしない」
「で、ですが…ッ」
「リリィ」
まるでわたしの言葉を遮りたいように、メイフュ王太子殿下はわたしに口づけ名前を呼んだ。
「誰にも、何も言わせやしない。安心しろ」