王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「…殿下、不躾を承知で申し上げますが、なぜその女なのです?」
「…カインさん!」
支度を進めていたマルラが、目をつり上げてカインさんを睨みつけた。
「リリィを侮辱なさらないでください!彼女はあたしの自慢の友達なんです」
「自慢の友達…?」
ハッ、とカインさんは鼻で笑った。
「会ってたかだか半月かそこらで、本当に何もかもわかったつもりか?どこまでも浅くお手軽な友情というわけか」
「あなたこそ…どうして、会って半月かそこらで、リリィをわかったつもりでいられるの?あなたこそ、浅い判断基準で人を理解したつもりでいないで!」
マルラは案外気が強い性格だったらしく、冷たいカインさんの態度にピシャリと言い返した。
「カイン、おまえの懸念もわかる…だが、今は私を信じろ。“彼女”の悪影響はないつもりだ」
(彼女…?)
王太子殿下の仄めかしが気にならないと言えば嘘になる。きっと以前カインさんが言ってた“彼女”…は、わたしと似たところがあったんだろう。ヴルグさんが昨日おっしゃってた“殿下の10年にわたる呪縛を解いて欲しい”という要望も。
(わたし…そんなに殿下の想ってたひとに似ているの?)
少し動揺している自分自身に驚いていると、メイフュ王太子殿下はカインさんにキッパリ言いきった。
「カイン。私が今は抱いているのは、リリィ・ファールだ。私が自分の意志で選んだ。それ以上口を挟むのは赦さない」
「……失礼致しました」
カインさんも悔しげな顔をしながら王太子殿下に従った。臣下である以上は仕方ないかもしれないけど…正直、わたしも自分の身になにが起きているのか、を理解しきれていない。
王太子殿下が選んだ…というのは?
ヴルグさんに公表を指示した事といい、サラさんが護衛につくとか…マルラがお世話するとか。
全然、意味がわからないよ!わたしはただの女官なのに…。