王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情


10年前…何だか奇妙な符号だ。
わたしが流行り病にかかって死にかけたのも、10年前。マルラの両親が流行り病で亡くなったのも10年前。
ヴルグさんが殿下の10年にわたる呪縛を解いてくれ、と言ったことも。

「ウゴスタダ大公国…まだ国はありますよね?今は、オレチナ皇帝陛下が即位されて復興しとても繁栄してるとか…」
「確かに、現にウゴスは存続しています。ですが、かの国が中心となり“闇”による呪いが広がり、世界中を覆ったのは事実です。わたくしも、首都オレバにて怪物“異形のもの”との防衛戦に加わりましたから」

サラさんは思ったより歴戦の勇者だった。だから、わたしの発作の原因にいち早く気付いたんだ。

「当時、メイフュ王太子殿下も偶然ウゴスにて滞在されておられ、“異形のもの”との戦いに身を投じられましたが…残念ながら呪いは世界中に広まりを見せ、各地に悪影響が及んでしまったのです。飢饉や流行り病や暴動の頻発…クーデターが起きた国もありましたし、実際に隣国に併合されなくなった国もありました」
「……そんなことが」
「はい。ですが、幸いなことに“闇”の呪いは浄化されました…それを為した少女が、殿下の想い人と言われてます」
「……」

サラさんはハッキリと真実を伝えてくれた。それはきっと、わたしへの最大の思いやりだ。口がさない他人から無責任な噂話をされるより、最初から伝えた方が傷つかずに済む…と。

でも…。

(別に……わたしは王太子殿下を想ってるわけじゃないのに…)

少し、ほんの少しだけ。胸の奥がチクチク痛むけど……きっと、似ているという“彼女”への羨む気持ち。わたしはそんなすごいことはできないし、むしろ他人にお世話になるばかりだから。

「…ありがとうございます、サラさん。よくわかりました。10年前に流行り病が大流行したのは“闇”が原因なんですね」
「…そのせいでお父さんとお母さんは死んだの…」

マルラが呟いたけど、暗い顔をしてる。そりゃあ、天災のようなものだけど、悔しいし悲しいしやりきれない気持ちになるよね。

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