王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

「マルラ……わたしはずっと友達だから。なにがあっても、わたしはあなたの親友だよ」

お馬鹿な頭なりに一生懸命に考えて、マルラに伝えた言葉がそれだった。
うまく伝わったかわからないけど、涙を浮かべた彼女は、「うん…ありがとう」と頷いてくれた。

ゴシゴシと涙を拭ったマルラは「失礼しました」と無理に笑い、桶を持って「お水、汲んできます!」と部屋を出ていった。

しばらく一人にした方がいいだろうな、と思う。わたしだって院長先生やクレア姉さんがなんの前触れもなくある日突然亡くなって、原因がわかればきっとそれを憎んでしまうだろうから。

まだ16歳のわたしたちは、まだまだ飲み込めないことが多い。もっと大人になれば、自然と受けとめられるようになるのかな?

とにかく、今日は王太子殿下のお言葉に甘えてしまおう。寝ていればマルラの仕事も少ないだろうし、わたしも考える時間が欲しいから。

(明日からは絶対女官に復帰させてもらおう…配置換えもお願いすればいい。王太子殿下に直接お会いできるという役割なら、きっと希望者はたくさんいる)

なりゆきとは言っても、わたしはたったひと晩お情けをいただいただけだ。殿下が責任を取る必要はどこにもない。
わたしみたいな人間…殿下の隣にいる資格も権利もない。もっと相応しい素敵な女性(ひと)はたくさんいる。
わたしが知らないだけで、女官になった人たちの中にもきっと。

(だって…王太子殿下のお母様だってノプット王国の継承権がある王女様なんだよ。なら、そういうひとを選ばなきゃ……)

孤児で親の顔も知らない、身分も身寄りもないわたし。相応しいどころか、きっと障害にしかならなくなる。

微かに痛む胸を押さえながら、頭から布団を被ってキツく目を閉じた。
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