王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

「あたし、お店のお手伝いしてきますね!」

マルラさんがエプロンを身に着けながら言うから、わたしは慌ててベッドから下りようとしたけど。クレア姉さんに肩を押されベッドに逆戻りさせられた。

「お客さんのマルラさんにそんなことさせられないよ!クレア姉さん、わたしが働くから」
「いいの、リリィ。お互い様じゃない。これから同じ職場で働く仲間でしょ。持ちつ持たれつよ。それに、体は労らなきゃね。これからバリバリ働くんだから」

屈託ない笑顔でそう言うマルラさんは、「マルラって呼びすてでいいよ」って階段を降りていった。

「クレア姉さん!」

わたしが非難めいた声を上げても、クレア姉さんは肩を竦めただけ。

「まぁまあ、リリィ。そうカッカしないの。厚意を有り難く受け入れるのも時には必要だよ。ちゃんと謝礼も払うし…それに、あの子あんたと友達になりたいから…って頑張ったんだよ」
「…マルラさ…マルラが?」

言い直したわたしに、クレア姉さんが頷いた。

「いい子じゃないか、リリィ。あんたには今まで同性の友達はいなかった…こんな寒村じゃ仕方ないけどね。だから、あんたもしっかり応えてあげなさいよ」
「…うん」

クレア姉さんの言うとおりに、この村では同世代がほとんど居ない。元々高齢化がひどい土地だし、どの家も生きるのに必死で…
たまに若い人が来ても、仕事が無いし娯楽もほとんど見当たらないここで定住者にならないんだ。

(確かにそうだ…マルラの気持ちを蔑ろにしちゃいけないよね)

うん、と1人頷いてるうちに、クレア姉さんは「しっかり寝てなさいよ」と言い残して階段を降りていった。
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