王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情


そして、お昼過ぎの午後。
予想以上の出来事がわたしに起きた。


(……えっと…こ、これは…)

小さな中庭にはいつの間にかテーブルやイスがセッティングされていて、向かい側には水色のドレスを着た美人さん。プラチナブロンドを緩く結い上げた頭にはティアラが輝き、きめ細やかな白い肌とシルバーの瞳は神秘的で妖精のように美しい。
でも、その顔立ちはどう見ても王太子殿下に似ていらっしゃる。

「突然訊ねてごめんなさい。マフィンがとっても美味しく焼けたからおすそ分けにと思ったの」

ケーキスタンドにはお手製のマフィンだけでなく、様々なお菓子が並んでる。白磁器のティーセットはおそらく特注品…デザインがいいな、と現実逃避したくなるくらい、この場から逃げだしたくなってる。

だって…

王太子殿下のお母様であり、ノプット王国王女であり、ガラザ2世陛下の后でいらっしゃるコウ王后陛下が目の前にいらっしゃるだけでなく、一緒にティータイムを過ごす…って。一体、何がどうなったらこうなるの!?

一介の女官に過ぎないわたしを、王后陛下が訪ねてくる意味は?

とは言っても、いつまでもガチガチになってる訳にはいかない。

「いえ…光栄に存じます」
「そう堅くなることはないわ。もっと気楽になさって」

いえ、王后陛下。そうはおっしゃっても…
あのお堅い女官長から、“失敗は許しませんよ”というすごい圧が後ろから来ているんですけど…。

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