王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
落ち着いた時には、顔が上げられなかった。恥ずかしいし申し訳なさすぎて、穴があったら入りたいし埋まりたい…。
「申し訳ありません…とんだ粗相をしてしまいまして」
「いいのよ。誰だって辛いことはあるもの……少しでも気が晴れるお手伝いができたなら嬉しいわ」
王后陛下はどこまでよくできたお方なんだろう。失礼な態度を咎めるでなく、逆にこちらを思いやって下さって……。
(だから、よけいに申し訳ないよ……)
王宮に女官として出仕してきただけの平民なのに、こんなふうに王后陛下のお心を煩わせてしまうなんて。
いくら陛下がお優しくても、女性としてこの国の最高の身分と位を持つ尊い御方。本来ならわたしごとき拝謁すら叶わない存在なんだ。
「……失礼な振る舞いばかりで申し訳ございません」
「気になさらないで……とは言っても今は無理でしょうね」
王后陛下は女官長へハッキリと命じた。
「ミレイ女官長、下がっていてください」
「王后陛下…それは」
「あなたの言いたいことは判ります。でも、時にはわたくしも羽目を外したいの。ね?」
王后陛下はわたしに向かって片目を瞑る…つまり、ウインクをしてきた。
“あなたもよね?”なんてお茶目に合図をされ、拒めるはずもなく。思わずコクコクと頭を縦に振ってた。
はぁ、と女官長はあからさまにため息をつくと、「承知致しました」と一礼をし、他の侍女や女官を引き連れて一旦退出していった。もちろん、護衛の近衛兵はしっかり残っていたけれども。
「これで、話しやすくなったかしら」
王后陛下は新しくお茶を淹れ直そうとなさるから、慌ててわたしがティーポットを手に取る。
「わ、わたしがやります!陛下はお座りになってください」
「そう?では、お願いしようかしら」
王后陛下はおそらく、わたしの小市民的な気持ちを汲み取ってくださったのだと思う。
こうして自分で動いていた方が気が楽、という事を。